新型肺炎コロナウイルス感染症に思うこと

この文章は、先日西宮市の医師会雑誌に投稿した内容です。

20203月中旬現在、新型コロナウイルス感染症は猛威を振るい、世界中で感染が広がっています。マスク不足と見えない敵に対する不安からか、社会も人も不安定になり、株価は暴落、当院でも診療時間を過ぎて来院した患者が「おれが風邪ひいているのに何で閉めてやがる。出てこい、このクソ「いわもと内科クリニック」のスッタフが~」と罵声と怒号をシャッター越しに浴びせる傍若無人な患者が現れました。この社会情勢は、いまから11年前の2009年新型インフルエンザが流行した時を想起させます。少しその当時を回顧しながら、現在の当院の取り組み等を紹介し自分の思うところを記したいと思います。

2009年当時、私は自衛隊病院の内科医官として勤務していました。今回ダイヤモンド・プリンセス号の検疫に自衛隊チームが入りましたが、2009年新型インフルエンザの時も、海外からの患者流入をストップさせるために、自衛隊は成田空港等に常駐しました。海外から到着した機体に乗り込み発熱患者に対し検疫支援を実施。2カ月間に及ぶ検疫作業に従事した後、各部隊や自衛隊病院に戻り新型インフルエンザ対策を実施しました。その当時の経験が現在の取り組みに役立っています。

しかし今回のコロナウイルス感染症は、ワクチンもない、治療薬もない。さらに医師一人の弱体組織のクリニック院長という立場。開院したばかりで経営は不安定。もし当院で普通診療状態で感染者がでたら、院内感染・クラスター感染者が生じ、風評被害はもちろんのこと、命にかかわり、また家族やスタッフを路頭に迷わせてしまうほどのインパクトがあるかもしれない・・不安というよりも恐怖を感じる事態です。

話は、今年1月初旬。コロナウイルス感染症が大きく報道される前のこと。発熱患者が直接来院し、開口一番「武漢から戻ってきたばかりです。」といわれ冷や汗をかいたのがきっかけでした。熱は39度。咳もしています。まだ感染防護など何の対策も全く講じていない不意打ちの来院でした。結果肺炎はなく、インフルエンザ迅速検査で陽性。念のため2週間後の再来院で、発熱や肺炎症状なく治癒していることを確認。もしその患者がコロナウイルス感染症だったら、クラスター化していたかもしれません。たまたまインフルエンザ陽性で事なきを得ましたが、初期症状としてインフルエンザと鑑別できない状況では、普通の診療体制だと危険と判断いたしました。

そこで当院では、高齢者や糖尿病患者などの重症化ハイリスク患者の来院が多いことを鑑み、2月より発熱外来を別時間で実施することといたしました。通常検査室として使っている外から直接入れる小部屋を発熱外来専用部屋とし、陰圧システムがないため、部屋のドアを開けサーキュラーを回して内気を外に排出するように配慮。写真のように防護服(タイベック3)、N-95マスク、ゴーグル、手袋とPPE(個人用防護具)をしっかりと装着したうえで、定期外来通院患者の診療が終わったのち、当院から順次発熱患者に連絡して来ていただき診察しています。また物件オーナーにお願いして駐車場での診察も許可していただきました。クリニック近隣には商業施設があり、PPEのまま駐車場にでると風評被害などが心配されますが、その点もご理解いただいた次第です。定期外来通院患者には、発熱外来の趣旨を説明し、安全にクリニックに通っていただける環境下であることをその都度説明。それでも1日外来患者数は極端に減り、クリニックに近づくこと自体、恐怖と感じている患者が多いと実感しています。現在の発熱外来患者数は、1日で平均5人程度。多いときには10人に及びます。一人にかかる時間・コスト・体力・精神的配慮は相当な疲労を産み、正直ストレスそのものです。患者数が減っているにも関わらず、残業が続いていますが、スタッフは文句も言わず、私についてきてくれることに心から感謝です。またこんな状況にも関わらず、クリニックを慕って通ってくれる患者さんを絶対に守らなければという使命感が、発熱外来のパワーになります。いつ終わるか分からない戦いでゴールが見えないことに不安が募ります。マスクやPPEなど感染防護に必要な物品が卸業者で普通に購入できず、市場価格より相当高い金額で投資をしていかなければならない不条理に苛立ちを感じます。おそらく半月もすれば、感染防護には絶対に必要であるアルコール・防護衣・N-95は市場から消え、医療資源欠落による医療崩壊が生じる可能性があるのではないかと愚考します。当院でもこれらの医療資源がなくなれば、発熱患者をお断りするしかありません。また発熱患者に対しても、コロナウイルス感染の観点からインフルエンザ検査もできず、問診のみの診断でもどかしさを感じます。当院では、Therapeutic and triage strategies for 2019 novel coronavirus disease in fever clinics.Lancet Respir Med. 2020 Mar;8(3):e11-e12.)のコロナウイルス診療フローチャートを改変して使用し、肺炎がないことを中心に診察していますが、帰宅して肺炎症状がでた際のフォローアップなどすべてに対して十分な配慮を行うことができずに見逃し例が出てくる可能性に不安を抱えます。重症者を救うならば、今の方針がよいと考えますが、ウイルスをオーバーシュートさせず拡散しないためには、WHOが言う「TEST TEST TEST」も必要です。しかし、そのためには医療崩壊が起きないように患者重症度別の取り扱い指針が絶対に必要です。そのため後方(患者受け入れ)施設を準備し、国と自治体が本気になってリソースの確保を含め早急に取り掛かるべき課題です。同時に国民のコロナウイルスに対するマインドを変えていく必要があります。8割の方が軽症で治癒し感染した場合でもコロナウイルスに対して免疫ができ、疫学的に感染を終息させるに役立っていることをポジティブにとらえられる教育です。同時に感染したことが風評被害や不当な扱いにならず、生き残って英雄扱いされる世の中になることが理想です。

現場レベルでは保健所との連携も重要な課題です。帰国者・接触者相談センターに連絡してから当院の発熱外来を受診される方の中に、中国・韓国・ヨーロッパ・東南アジアからの帰国者がいらっしゃいました。そのような患者に対して、どのような根拠をもって、保健所がクリニックに受診してくださいと言ったのかは不明です。海外渡航歴のある発熱者は、国内にいる患者よりも感染確率が高いと現在推測しますが、保健所の発言一つでクラスターを作りかねない状況であることを認識してもらい、医師会等を通じコミュニケーションを密にして現場との格差(壁)をなくしていただきたいと思います。少なくとも、このような海外渡航歴のある患者にはクリニックを受診する前に、電話をしてから受診をしてくださいと一言保健所の方から添えていただける配慮があると助かります。発熱患者から電話してもらうだけで、患者の動線を別にでき、診療時間と部屋を発熱専用に用意でき、また防護服の準備ができ、電話一つで院内感染防止・クラスター感染防止ができるのです。また現在は、残念ながらPCR検査を依頼しても、なかなか実施していただけない状況にあります。PCR検査をするには保健所を通じて帰国者・接触者外来へのつなぐ必要があるのですが、幾つかの問題があり検査を実施できない理由があると考えられ、その問題を早急に解決する必要があるのではと想像します。このシステムを続けるのであれば、感染者のベット数確保帰国者・接触者外来および保健所の人的および設備リソースの補強(公的機関だけでなく民間機関への依頼)が必要です。ただし感染経路が分からない患者が急増した場合には、今の少数PCR検査システムではコロナ患者を隔離できないため、さらなる感染数増加が予想されます。その際には、自分自身がコロナ感染症であるかもしれないといった意識で行動する国民の協力が絶対的に重要となります(自粛)。また、簡易診断システムがクリニックでも使えるようになれば、それと同時に、アビガンの早期承認により臨床現場は劇的に変化し医療崩壊を防ぐことは、より容易になってくると考えられます。世界の技術を結集すれば、数カ月で可能となる診療体制ではないでしょうか。ワクチン開発には時間がかかりますが、アビガンはすでにあり、簡易診断キットの開発はそう難しくないはずです。

今の私は、クリニックに通ってくださる患者を守ること、スタッフとその家族の健康を守ること、そのことを第一義として行動することしかできませんが、末端の一医療機関としてやれることを全うしていきます。今はメディアでみられるように批判しあっている場合ではありません。協力し合い、助け合い、国民一人一人が地球という船が沈まないように、自分ができることをしていきましょう。コロナウイルスは、国民ひとりとりの自覚とその行動を試されているように感じます。同時に大袈裟かもしれませんが国家への挑戦とその国の資質が問われているように思います。必ず一人一人できることがあるはずです。それができれば、感染拡大は防げます。自己中心的になるのではなく、誰かを思い、誰かを守る意識があれば、自然と規律ある行動ができ、ウイルスに負けることはありません。

ワクチンや治療薬が開発されれば世界は劇的に変わります。新型インフルエンザ感染症が流行した11年前と同じく、いつか平穏にすごせる日々が訪れることを信じて願い、私も根拠をもった行動を続けていきたいと思います。この手記がみなさんに読んでいただける頃には、少しでも良い状況に変わっていることを祈ってやみません。

いわもと内科クリニック 糖尿病内科・代謝内科・循環器内科・内科
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