西宮の文学に触れる 第八弾 「博士の愛した数式」 小川洋子
こんにちは。西宮北口 西宮ガーデンズにある内科・糖尿病内科・代謝内科・循環器内科のいわもと内科クリニック 院長 岩本です。
本日ご紹介するのは、大の阪神ファンで芦屋に在住の小川洋子さんの作品「博士の愛した数式」をご紹介します。
登場人物は、事故によって80分しか記憶が持たない数学博士。そしてシングルマザーで博士の家政婦である「私」と10歳の息子ルート。
記憶障害があっても、数学に対する愛着と一生懸命さを忘れず飽くなき挑戦を続ける博士。医学を学ぶ身である私にも、その真摯な姿勢が羨ましく思えます。そして博士のルートに対する慈悲深い愛情は素晴らしいの一言に尽きます。また博士に愛されたルートの心は、美しく尊い。記憶がなく、一見儚くみえる愛情でも、それは永遠に存在する幸福のように思えます。
小川洋子さんが凄いのは、この物語を数学を通じて記述している点です。とくに、オイラーの公式 ( e/πi + 1 = 0 )を情緒的に以下のように述べています
「果ての果てまで循環する数 (π) と、決して正体を見せない虚ろな数 ( i ) が、簡潔な軌道を描き、一点に着地する。どこにも円は登場しないのに、予期せぬ宇宙からπがeのもとに舞い下り、恥ずかしがり屋の i と握手する。彼らは身を寄せ合い、じっと息をひそめているのだが一人の人間が1つだけ足し算をした途端、何の前触れもなく世界が転換する。すべてが0に抱き留められる。」
異なる3つの学問、つまり幾何学である円周率 ( π ) と代数学の虚数 ( i ) が解析学の ( e ) と出会い美しい0を織りなす。最も美しい数式と言われている所以です。
博士 ( e )と私 ( i ) そしてルート ( π )が交わり、それに+1(未亡人)すると、美しい0が生まれる。博士は、素性が全く異なる私とルートがいることで、幸せになれたのでしょう。どことなく哲学的な数式です。そして、その公式の真理を巧みに利用して文学にしてしまう小川洋子さんの思慮深さは、本当に凄いですね~。尊敬します。
昨今ビジネスの世界で革新と躍進をするには、ダイバーシティ&インクルージョンという概念が非常に重要だといわれています。個性を殺しチームに同化を求めるのではなく全く異なった性格・年齢・性別・文化の人々が、本来の自分のままで個性をいかんなく発揮することによってチームが成長するという考えです。野球やラグビーなどのチームスポーツにも重要な概念ですね。オイラーの公式は、その真理も追究している美しい数式に思えてなりません。
ちなみに本作品には、タイガース選手の名前が沢山でてきます。新庄、湯舟だけでなく江夏投手はこの物語の重要なパーツとして登場しまーす。
いわもと内科クリニック
院長
岩本紀之